母と「水師営の会見」
10月4日木曜日の母の面会の時、いつものように三階のベランダに出て、母と二人で散歩している途中で、機嫌でも良かったのか、母がただ一曲必ず口ずさむ軍歌「水師営の会見」を鼻歌で歌うのが聞こえた。

私はここ数ヶ月、母が得意とする2番の「庭にひともと、なつめの木」と始まる歌詞がなかなか出なくなったので、ほとんどあきらめていたが、この日は思い切って車椅子の母に向かってしゃがみ、2番の出だしを歌ってみた。

母はうなずきながら調子をとったが、メロディーだけで、残念ながら歌詞は出なかった。
私は再び「庭にひともと」と歌ってみた。すると、「・・弾丸あとも、著く」の部分を母が合わせてくれた。

私は母に「一、二、三」と合図するかのように声をかけて、三たび2番をゆっくり歌い始めた。
母は私の顔を見ながら「庭にひともと、なつめの木、弾丸あとも・・」と一気に歌ってくれた。

認知症が次第に進行してはいるが、たとえひとときの慰めであろうとも、これだけのむつかしい歌詞の軍歌を母が声をそろえて歌ってくれたのは実に5月以来、およそ五ヶ月ぶりのことだった。

人生に永遠などということはない。だからこそ、ひとときの安らぎをおおいに感じ取り、いささか心和む散歩が終わった。

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